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| ================================================================ 宮崎 学 【野生は笑う】 (山はいいぞう!)vol.17 ============== http://www.owlet.net/ ============================ こんにちは、管理人モモンガです。 しばらく発行をお休みしてしまいごめんなさいm(__)m 今回は、過去のgaku日記より、「エエ話しやなぁ」と好評だったものを 一部添削してお届けします。 --------------------------------------------------- ◆よりぬき「きまぐれ日記」 『山はいいぞぅ』(05月04日) 「私の持ち山にフクロウの巣があります。抱卵日数はどのくらいでしょうか。 巣立ちまでには、どのくらいかかるのでしょうか。」 そんな問い合わせが人を介してボクのところにあった。 質問の主は、松本市の老人ホームに入所中の青さん(仮名)からだった。 青さんは、老人ホームに入所しながら、自分の山の手入れに通っておられる方だった。 さっそく電話をいれてみると、よろこんで巣まで案内してくれるとのことだった。 老人ホームに入所しながら、「山持ち」というところに、ボクは興味があった。 山に通えるほど元気な人が、老人ホームに入所していること自体が、不思議でもあった。 そこで、さっそく、お訪ねしてみた。 青さんは、77歳。風貌は、キューバのカストロ大統領みたいだった。 まさに、カストロ帽子をかぶり、あごヒゲを20センチも伸ばしていた。 そして、24年間乗っているという「幌ジムニー550」を 老人ホームの駐車場に停めてあった。ジムニーは運転席だけで、 あとは荷物置き場。チエンソーからスコップ、ジョレン、ナタ、ゴム長靴・・・・。 とにかく、山仕事に使う道具は一通り積んであった。 その道具を片づけて、ボクが後ろの荷台に座る。ジムニーに揺られること、15分。 青さんの山に着いた。山は10町歩(30、000坪)あるという。 30〜60年生のヒノキの植林が、全体の2割。 あとは、50〜70年生のクヌギなどの雑木林だった。 しかし、山はよく手入れが行き届いていた。下草もしっかり刈られていて、 枝打ちも、見事に行われていた。ところどころにはキハダも植えてあり、 林を流れる小川にはワサビもあった。 そのワサビが、山の斜面にまで一大群落をつくっていた。 「ワサビは2〜3株を小川の脇に植えただよ。 そうしたら、あれよあれよという間に、こんなになっちゃった。」 山を一緒に歩きながら青さんと話をした。 「この山はワサビにはいい環境なんだろうねぇ。 ワサビは25度以上になると弱っちゃうさね。だから、ここは涼しいんだろうねぇ。」 と言ってもワサビを摘んだあとも見受けられないから、 青さんはほんとうに自分の山を愛してやまないお方だった。 その山のクヌギ林の脇に、桜の腐った株があった。 フクロウは、その株に巣をつくっていた。 巣には、あと1週間ほどで巣立ちそうな2羽のヒナがいた。 いつ見てもフクロウのヒナは可愛いい。 しかし、はじめての山でこうして見るフクロウは、また新鮮な感動をおぼえる。 青さんは言う。 「私は、自然のことは何にも知らない。 ですから、センセイ教えてください。 このフクロウは、いつごろから来ていたのだろう・・・ね。」 「いや、これは、この古株でもう何年間も子育てをしていたと思いますよ。」 「ほうぅー、そうですか。この株の横をこれまでもよく歩いてきたが、 こうしてフクロウが飛び出したのは初めてのことです。」 個体によって、絶対に飛び出さないフクロウもいるし、 なによりも、子育てのちょうどいい時期に、 ここを通りかからなかったのではないかとボクは答えた。 「ほんと、そういわれりゃぁ、これまで、 ここにある古株の存在すら気にかけなかったからねぇー。 古い木でも、森で大切な役目をもっていることを今回はじめて知りましたわ。 そういえば、昔に、ヤマネの寝ているところを知らずに 私はノコギリで切ってしまったことがある。あれは、可哀相なことをしてしまいました。 ちょっとした枯れ木が立っていて、上のほうが腐っていたものだから、 その腐ったところだけをノコギリで伐っていたんですよ。 そうしたら、ノコギリに血がついてくるではないですか。 腐ったところに穴があって、そこをヤマネが棲み処にしていたんだねぇー。 私は、ヤマネに悪いことをしてしまった、ですわ。 それをいま思いだしましたから、山には健康で生きている木も必要だし、 枯れてしまっても、それなりに意味があることをこのトシになるまで知りませんでしたわ。」 そんな会話をしながら、フクロウの巣をのぞき込み、 巣内の食べのこしなどの残骸をボクは拾っていた。 このフクロウの巣には、たくさんの野鳥の羽毛があった。 それらの羽毛から、ハクセキレイやカシラダカ、 カワラヒワが犠牲になっていることが分かった。 さらに、モモンガの右後ろ足から骨盤、 尻尾つきの食べ残しのあることにも、気づいた。 ついでに、ハタネズミのお尻も。 ここのフクロウは、相当に幅広い狩りができるつがいのようだった。 ボクは青さんにお願いをした。 「青さん、このヒナはあと1週間以内に巣立っていきますから、 今年は餌などの調査ができません。こんなにいい条件ですから、 ここのフクロウはまだまだこの先10年はこの古株を使い続けるでしょう。 来年も必ず帰ってきますから、ロボットカメラで餌だけでも調べさせてください。」 「いいですとも、いいですとも。 この山をセンセイは自由に使ってくださっていいのですよ。 もう、隅からすみまで、とにかく自由に使ってくださいな。」 それから青さんの身の上話はつづく。 「私は、定年退職するまでずっと会社で働いておった。 退職後は先祖がくれてあった山があったから、山で暮らそうと思った。 一人息子は東京に出ていってしまっている。 子供には子どもの人生があるのだから、私らが感知することはない。 そう思って、女房と二人で、荒れていた山の手入れで余生を送ろうと思ったのさ。」 若いころ、戦争で、私は乗っている船を飛行機と潜水艦によって、 6回も沈められた。最後は、たった一人で8時間も海を漂流していて、助けられたよ。 そのあと、戦争が終わってすぐに肺結核さ。 だから、一つ肺がないのだよ。それでも、こんな私に嫁がきてくれた。 センセイ、私の小屋を見ていってください。 ここには小屋があるんですよ。女房と二人で、二年がかりで手づくりしました。」 ボクは、青さんに案内されて山へきても、小屋があることには気づかなかった。 そういわれて周囲を探したら、ヒノキ林の中に、小さな小屋がひっそりと建たっていた。 それはあまりにも自然にとけこんでいたから、まったく気づかなかったのである。 小屋は、二間二間の中二階。二段ベッドと薪ストーブがあって、 なかなかしっかりできていた。その横には、風呂場と物置、トイレまで手づくりされていた。 「ここで、山仕事をしてから風呂に入って汗を流して自宅へ帰ったもんさね。」 湧き水を上流からホースで引いてきて、蛇口を取り付けて、五衛門風呂にしてあった。 燃料は山を手入れしたときに出てくる木だから、ふんだんにある。 水だって、自分の持ち山から湧き出してくる天然水。 「うぅわぁーー、いいですねぇー。ここで風呂に入って、酒をちょっと飲んで。 小屋の薪ストーブで部屋を暖めて、二段ベッドで眠る。 夜はシカ、フクロウ、トラツグミ・・・の声なんかを子守歌に。 それだけで、ボクだったら長生きできますよ。 原稿の締め切りなんて・・ほったらかして、さぁ。」 ボクは感心して言うと、青さんはしみじみと語ってくれた。 「センセイは、山に夜も寝るらしいけど、 私はどうしてもこの小屋には泊まることはできなんだ。 ・・・・私は、姉さん女房でねぇー。退職後からずうーーと、ここに 二人で毎日通ってきたんだよ。結婚生活は45年続いたが、 ケンカもしたけど、いい女房だった。そして、膵臓ガンになってしまって、 1年と7ヶ月間看病したよ。だけどぅ、最後の1年7ヶ月っつうもんが、 ほんとうの夫婦だったような気がする。 3年前に女房は亡くなったが、私もしてあるが女房も献体をしてあったから、 実際に帰ってきたのは去年の11月だったよ。」 「あっ、そうだ。センセイあと100メートルだけ歩いてもらってもいいかいねぇー。 私はどうしてもセンセイに見てもらいたいものがある。 まあ、いけば分かるから。わるいねぇー、一緒に歩いてもらえるかいねぇー。」 そういって、小屋から上にヒノキ林の斜面を登りはじめた。 100メートル上には、なんと青さんの奥さんが眠っていたのだった。 「これは、女房と二人でここの山の石を運んできて、二人で眠る約束をして作ったのさ。 街の中に先祖の墓もあるけど、やはり、私らは山のほうがいい。 そのほうが、息子だって、山があって親が眠っているとおもえば、 毎年ではなくても数年に一度くらいは、訪ねてきてくれるだろう。」 そこには、2メートルほどの高さに土盛りがされていて、石室が埋められていた。 ボクはこれを見たとき、すごいと思った。 そして、なんだかこの土盛りに魂のようなものを感じた。 昔、沖縄の西表島の密林の中に見た石づくりの「墓」を思い出してしまったのだ。 その墓も、すでに無縁墓になっていながら、 密林のなかで恐ろしいほどの魂を感じたからである。 石室の中には、青さんの奥さんの遺骨が眠っている。 その墓前で青さんの話しをずっと聞きながら、 ボクは生前にお会いしたことのない奥さんにご挨拶をした。 手を合わせ、フクロウがご縁で山にきたことを、お伝えした。 その瞬間、青さんは大声で叫んだ。そして、泣きはじめたのだった。 「宮崎センセイが山に来てくれたぞぅ。 フクロウが呼んでくれたぞぅ。 よかったなぁ、おまえ。センセイがこの山を見にきてくれたんだよーー。」 これを聞いて、ボクも思わず涙がでてしまった。 そして、青さんは、ほんとうに心の底から奥さんを愛しておられたことを知った。 だから、いまでも老人ホームから毎日ここまで通ってきているのだ。 一人の人間がどう生きて、どう死んでいくのか。 その生きざまを、ボクは青さんに見た思いだった。 一人息子は、東京の大学で先生をしているそうだ。 それ以上ボクは、深く聞く必要もないので、「そうなんですか・・」とだけ、答えた。 しかし、青さんの心の寂しさも、一瞬ながら見てしまった。 だから青さんは、この山が似合うのである。 「さっさ、センセイ。長い時間をとらせてしまいました。 事務所に帰りましょう。」 再びジムニーの荷台に揺られて、老人ホームへ帰ってきた。 白壁のコンクリートでできた立派な老人ホームである。 しかし、いったい青さんは、ほんとうにここに帰ってきていいのだろう・・・か。 山に小さな小屋があるではないか・・・。 ボクだったら、どんなに寂しくても、やはり、山小屋がいい。 ────────────────────────────────── ◆更新のお知らせ ○「リンク」ページを更新しました。 メーリングリスト「fishml」(フィッシュミル)のページへぜひお出かけください。 gakuが乱入してすっかりお世話になっているお魚サイトですが、 もしかしてこの秋にfishmlのオフカイin信州が開かれるかもしれません^^ ○駒ヶ根の土地は、おかげさまで新しい持ち主が決まりました。 ご協力ありがとうございました。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 宮崎 学 【野生は笑う】(不定期発行) 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