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『真っ赤なウソ』

中央アルプス山麓にあるアトリエの部屋で仕事をしているときだった。
とつぜん、「ドカン」という音に、窓ガラスを見た。
その瞬間、ウソがよろよろっと、落下していくのが見えた。
ウソが、窓ガラスに激しくぶつかったのだった。


■窓ガラスは「空」
  ウソが弱々しく翼をふるわせて落下していく加減から、これなら生命が「助かる」とボクは思った。その様子からして、骨折もしていない飛びかただったからである。
  仕事の手を休めて、すかさず屋外へ出て雪の上に落ちていたウソを拾いあげた。頬から胸にかけて、ピンク色の広がる真っ赤なウソの雄だった。美しい、ほんとうに、美しいウソだ。自然界で生きていくうえで、こんなに美しいピンク色がなぜに必要なのか、ウソに聞いてみたくらいだ。
  ウソは脳震とうをおこしており、目を開けてはいるが、ボクに拾われたことすら気づいていない。心臓を小刻みに鼓動させているのが、生きていることを教えてくれた。
  こういう状態の野鳥は、とにかく暗くして落ち着かせることだ。小さなダンボール箱の中にいれ、回復を待つことにした。
  ウソが窓ガラスにぶつかったのは、ガラスに空が反射していたからだ。ガラスが鏡のように明るくなっていれば、林の中からみればそこにも「空」があると錯覚してしまう。
  このような窓ガラスは、いくら野鳥だって落ち着いていれば見破れる。しかし、猛禽類などの大型の野鳥の影に怯えたときに、ぶつかってしまうことがよくある。そこで、「バードセーバー」といってタカなどの黒いシルエットをガラスに貼りつければ、野鳥たちにガラスがあることを教えるから、このような事故はかなり軽減できる。しかしながらボクは、それを怠っていた。

■亜寒帯の控えめ者
  ウソは、スズメを若干大きくしたくらいの野鳥。
  「フィー フィー」と低い口笛のような声で静かに鳴き、雄は頬がピンク色をしているのが特徴だ。山野にひっそりと暮らすことが多く、夏は中部山岳地帯の亜高山帯から北海道にかけて生息している。そして、冬になると平地ないしは山麓部に移動してくる。どこにいても、とにかく地味で目立たない野鳥だが、それでいて雄の赤い頬に出会うとドキリとするくらいにお洒落である。
  そんなウソが冬になると毎年、ボクのアトリエの庭にもやってくる。雑木といわれるものが、アトリエにはたくさん生えているからだ。冬の時期のウソは、雑木の種子や芽を主食にしている。アトリエでは、ヤマハンノキやウリカエデ、ネジキなどの冬果を食べていくのだ。
  庭にやってくるウソは、朝早くから、番だけでひっそりとやってきていることもある。また、10羽ほどの小群で訪れるときもある。あまり人を警戒しないから、5メートルくらいのところでも、平気で食事中だ。とにかく地味な性格だから、鳴かないかぎり、ウソが近くにいることすらも忘れてしまう。

■何事もなく再び
  1時間ほどして、そっとダンボールを明けたら、ウソの目には力がこもっていた。脳震とうから開放されたのだ。
  そこで、手のひらにすくって外へつれだし、3枚ほど記念撮影をしたらいきなり飛び立った。ウソは一直線に林の中をぬって、200メートルばかりを一気に飛んでいった。その飛翔姿にはふだんと変わらないものがあったから、完全に回復したにちがいない。このウソは、これからも近所の山野で元気に生きていくことだろう。
  そして、今日もアトリエの庭には、数羽のウソが遊びにきている。
  このようなウソの訪問が毎冬あるから、夏のあいだにうっとうしく感じる雑木も、ボクはむやみやたらに整理することはできないでいる。ウリカエデやネジキという木は、ちょっと油断していれば枝葉をどんどんのばしてくる。秋の紅葉もそれほど美しくはないが、こんな木でも冬になれば山野の小さな生命をささえているかと思うと、伐採するわけにもいかない。
  そして、何よりも「窓ガラス」にバードセーバーをつけることを急がねばならぬ。

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手乗り真っ赤なウソ・・・・


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オスのウソ 雪を食べるウソ

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雌ウソには、赤い頬がない。 ウリカエデの冬実。

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雪の上に落ちたウリカエデの食跡、これを「ウソ模様」とボクは呼んでいる。 脳震とう中のウソ。

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近所の喫茶店にボクがつけたバードセーバー。

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