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『人間に翻弄されるエゾシカ』

北海道には、エゾシカがいる。ヒグマと並ぶ、大型獣である。
エゾシカの雄は体重が120−130キログラム。雌は、60キログラム前後。
これほどの体重をもつ草食獣だから、
昔から人間にとっては貴重な蛋白源の対象にさ れてきた。
そのため、戦後の一時期は乱獲されてエゾシカが激減した。
しかし、近年では激増 し、様々な問題を呼んでいる。

■森林開発でエゾシカは増えた
 エゾシカがもっとも好む環境は、「林縁部」。深い森林でもなく、草原でもないのである。
 こうした林縁部が、戦後の北海道には急激に増えた。それは、森林開発が広面積にわたって大胆に行われたからだ。それまであった原生林がどんどん伐採されて、牧場や畑が広範囲にできていった。深い森林がこのように人間によって開発されると、「林縁部」が随所にでき、エゾシカにとっては歓迎すべき自然環境となる。そこに、乱獲から激減中だったエゾ保護政策が加えられ、わずか20−30年の間に激増したのだ。いわば、森林開発と社会背景がエゾシカにとっては有利に働いたのである。
 増加したエゾシカは、道路脇に顔を出したり、ときには横断するものもでてきた。そして、交通事故に遭うものも増えてきた。数が増えれば当然のように、農作物への被害も出てくる。ジャガイモやニンジンなどの農産物に加えて、牛や馬に与える目的で作られている牧草を、エゾシカが食べるようになった。人間や家畜が食べて美味しいものは、エゾシカにとっても美味しいのである。
 当然農業関係者などから、抗議が出始めたのだが、エゾシカを駆除するのは抵抗があったのか、まだ保護の対象からは外されなかったのである。そしてエゾシカは、さらに数を増やしていったのである。

■生き残り戦略で樹皮をかじる
 仲間があまりにも増えすぎたことから、エゾシカは一部の地域で、いきなり食糧不足にみまわれる事態となった。冬になると、お腹をすかせたエゾシカが、樹木の幹の皮を齧り餓えをしのぐようなったのだ。
 エゾシカの門歯は、下あごにしかない。これでは、本来は垂直の樹木の幹を齧るのには不都合だ。それなのに、あえてそうしているということは、やはり生死を賭けた背に腹は代えられない瀬戸際での行為なのだろう。
 冬の間に、樹木の幹のまわりの皮を一周ぐるりと齧られた木は、春の芽吹きのころには立ち枯れてしまう。しかし、春にはその枯れた樹木のまわりに植物が繁茂するのだ。
 樹木は大地に根を生やしながら同時に、自分の存在を脅かす植物の発芽を押さえる、フィトンチッドという物質を出していることが知られている。
 樹皮を齧るエゾシカは、いま自分が飢えて死ぬかもしれないから必死に樹木の皮を齧っているのだ。しかし、木を枯らし林に空間をつくって、自分たちの餌となる「植物」の繁茂を助ける行為をしていることを、エゾシカは知っているのか無意識にそうさせているのか、結果生き残った個体が子孫の繁栄に貢献していくのである。

■極端な開発の功罪
 「これでは、森林がダメになってしまう」と林業者からの指摘で、エゾシカは一転害獣へとなっていく。
 しかし、これはエゾシカたちが好んで求めてきたことではないことがわかる。森林を大開発すればその影響で減ってしまう生物もいるが、それを喜ぶ生物もいる。エゾシカはまさに後者である。その結果、仲間が異常に増えてしまった。そして、共倒れに向かって内部崩壊を誘発された。それでも誰かが生き残るであろうことに期待して、極限でなければやらない樹木の皮を齧る行為に、彼らは走っているのである。
 北海道は私たちの目線で見ると、自然が豊かに残されているように感じる。しかし、エゾシカの盛衰の裏側から直視すれば、それは限りなくバランスが崩れているといっていい。エゾシカの食害だけをクローズアップしてみていただけでは、自然界の本当の意味が見えてこないのである。

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優美な雄ジカの姿の裏側には、増えすぎてしまった悲壮な生命の駆け引きがかくされている。


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食糧不足となり、最後の不味い餌を地上のササに求める。

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普段はあまり食べない笹も飢えてくれば食べる。

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このように樹木の幹が丸齧りされれば、翌春には必ず木は枯れる。 樹皮を齧る雌ジカ。

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増ええすぎて道路にも出てくるようになり、交通事故も絶えない。 雄ジカが冬のグループをつくって、隊列を組んで移動中。

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冬になって、禁猟区に逃げ込んできた大群 禁猟区だと、番屋の庭までやってくる。

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道路に飛び出して来ないように、フェンスが張られている。 若い雄ジカなのに、生きることを許されず雪に埋もれていた。

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幹に残されたシカの門歯の跡に、生死をかけた悲壮感がみえる。

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増ええすぎて道路にも出てくるようになり、交通事故も絶えない。 このような偕伐が、鹿を増やす条件となる。

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ここも、本来は深い森林だった。 シカ道が山の斜面にくっきりと見える。

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