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「ツキノワグマは怒った」

登山者はクマのことを親しみをこめて、「山おやじ」という。
そのクマに、知人が襲われたという。
クマが人を襲うなんて、やはり興味がある。
その原因を探りたいと、その人にあってみた


山おやじの残した棚
  秋になると、なんだかそわそわする。キノコが採れるあてもないのだが、山にでかけたくなる。アトリエからすぐ裏手は、もう中央アルプスの山肌。どこを進んでも、森、林がつづく。そんな当てもない山歩きをしていて、林道脇に生えるサワグルミの木に、黒々とした「棚」があるのに気づいた。これは「クマ棚」ではないか。  
クマ棚とは、ツキノワグマがドングリやクリなどの木に登って、木の上に小枝を敷き詰めて作った棚のことをいう。樹上で小枝を折りとっては枝についている実を食べ、残った枝を尻の下に敷いていく。何本もの小枝を食べながら敷きつづけるから、クマが去ったあとは棚状になっている。  
冬になって樹木がすっかり落葉してしまっても、クマ棚は葉がついた状態で残るからよく目立つ。クマに折り取られた枝だけは葉が落ちることなくついているからだ。こうした棚を見つけて、昔の猟師はクマの冬眠穴を探って狩りをしていた。  
クルミのクマ棚を見つけて、「そういえば、3年前にもあった。」ことを思い出した。その記憶が蘇ると、ほかにもクマ棚のあった場所が思い返された。そこで、3年前の記憶をたどって、歩いてみた。はじめのクルミの木から、700メートルほど離れたスキー場脇にあるクルミの木にも、棚が見られた。さらに1キロほどいったウワミズザクラの木にも、やはりクマ棚はあった。どうやら同じクマが、一夜にして移動した痕跡といえた。  こうしたクマ棚をみると、なんだかとても嬉しくなる。人知れず、近所にクマがやってきて、自分の仕事だけはちゃんとこなしていく。その現場をだれも目撃したものはなく、痕跡だけを残して、確かにクマであることを教えている。そんなツキノワグマである「山おやじ」の小気味ある余裕が、嬉しいからだ。

クマが車を襲う?!
  そう思いながら爽やかな気分でいたら、市内にあるホームセンターの店員の車がクマに傷つけられたという情報がはいった。
さっそく出かけてみたら、確かに乗用車のフェンダーからボンネットにかけてクマの泥足が残っていた。話をきけば、中央アルプスの山麓部を走っていたら、いきなりクマが車を襲ってきたという。
「クマが車を襲う」ことが僕には疑問に思えたし、もしこのようなことが実際にあるのなら、野生動物と人間の関係を問う意味で今後いろんなことを考察しなければならない。そこで店員のFさんから、もっとそのときの事情を聞いてみた。
Fさんは、林道の前方を歩くクマのうしろ姿が目に入ったという。その大きさからして「犬」だと、思ったらしい。
とにかくクマは、道路のど真ん中を運転席にお尻を向けて歩いていた。そこで、Fさんはどんどん近づいたら、クマが道路の右端によけてくれたから、その脇を通り過ぎようとした。そしたら、クマがいきなり立ち上がって車に手をかけて、ガリガリやりはじめたという。このときはじめて、この動物は犬ではなくて「クマ」だということが、Fさんにも分かったらしい。そこで、アクセルをいっぱいにふかして一目散に逃げ帰ってきたという。  
この話をきいて、車をよくよく調べてみたら、なんと右フェンダーの上のほうが5センチばかりへこんでいるのがみえた。それをFさんに訊ねたら、まったく身に覚えがないという。この「へこみ」こそ、クマに接触した痕にちがいない。Fさんは覚えがないらしいが、クマがよけてくれたところに車が接触したから、怒ったのだ。でなければ、野生のツキノワグマがわざわざ車に向かってくる理由がない。それも執拗にフェンダー付近を攻撃したらしい「泥足」の跡があった。

「まさか、クマとは・・・」
  Fさんは、ツキノワグマを犬と間違えたのが、そもそもまずかった。確かに、クマの知識がないまま里山で黒い動物にであえば、とっさには「クマ」とは思えないものだ。クマは大きなものというイメージがあるから、本物に出会っても「シェパード犬」くらいにしか感じられないのが事実である。でも、それが実際にはクマなのであるから、里山のどこにでも「いる」と思わなくてはならない。   近年は、林道がいたるところで整備されているし車で気楽に山野に入ることができるから、現代人は野生動物に対する警戒心がなくなってしまっている。こうした知識不足からくる事故は、今後も増えてくることが予想される。
はたして、Fさんの車にツメを立てたツキノワグマは、今頃はどうしているのだろうか。車のへこみぐあいから推しても、かなり打撲傷を負っていることだろう。その痛みをいつまでも覚えていて、山野で乗用車をみるたびに襲いかかってくるようなことがないように祈るのみである。現場は、クマ棚から直線で4キロほど離れているだけだから、僕のアトリエ付近にもやってきている可能性がある。
   クマは昔から童話の世界では、人間とはとても信頼感のある仲間だった。それがいつのまにかボタンを掛け違えてしまって、凶暴な動物になってしまった。
   「山おやじ」と親しみ、うまくつき合っていくにはそれなりの知識も必要なのかも知れない。

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舗装された林道のすぐ脇にあるこのクルミの木に、ツキノワグマが登っていた。 クマ棚は葉が繁っていると見つけにくいが、ちょっと角度を変えたりして探せばこのように黒々と存在感をもって見えてくる。

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地上に落ちたクルミも食べたらしく、草の寝ぐあいが野生の緊張感を誘ってくれる。

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僕がいっつも行く、近所のホームセンターのFさんの車。ボンネットの泥がクマの手のひらの跡だ。 ボンネットをよく見れば、爪を立てたあとまでくっきり残っていた。 ライト上のフェンダーがへこんでいた。ここにクマがぶつかったらしい。

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Fさんは、ここを走っていてツキノワグマに接触した。 別の場所、スキー場のリフト脇のクルミの木にも、ツキノワグマは登っていた。 そのクルミの木をアップでみたところ。かなり小枝の方までクマが登っていたことがわかる。

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これは林道脇に生えているウワミズザクラの木。 ウワミズザクラの実は、ツキノワグマにとっては大好物。しっかりとクマ棚ができている。 ウワミズザクラの幹には、ツキノワグマが登った爪痕がくっきりついていた。

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ツキノワグマはいつ出会っても、その賢そうな表情が好きだ。丸みのある体形にも愛嬌があって、親しみ深い。

使用カメラ ニコン D1
使用レンズ
シグマEX17〜35ミリF2,8〜4、シグマEX28〜70ミリF2,8、 シグマEX50〜500ミリF4〜6,3
13番は、ニコンF4,80〜200ミリf2,8
  f8 ストロボ RDP?



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