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『イノシシ家族』vs『お百姓さん』

山里に棲む野生のイノシシ。それに敵対する農家のオヤジの攻防・・
 最近、イノシシが確実に増えてきた。そして、その増加に比例するように農業被害も増えている。
 イノシシは、田んぼの稲や畑のジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、カボチャ、モロコシなど、とにかく手当たり次第に食べてしまう。
 僕の仕事場としている中央アルプス山麓にも、イノシシがいる。山麓は鳥獣保護区に指定されているから、イノシシたちも安心して生活している。
 高原の別荘地付近を、親子でぞろぞろと散歩しているイノシシ家族にも、よく出会う。そのついでに、僕の庭にもやってきて少しばかりの畑を荒らしていく。
 僕は農業のプロではないので、イノシシのいたずらには目をつむっている。しかし、近所の農家はそんなことは言ってられない。その横暴ぶりに、怒っているのである。
 このように、イノシシが増えてきている遠因には人工林の手入れ不足に原因がありそうだ。植林されたヒノキ林などは手入れがされないまま放置されている状態にある。雑草が生い茂り、ついでに「クズ」もはびこる。クズ根には良質な澱粉が多量 に含まれているから、イノシシにとっては好都合となり、大喜びをしているのだ。
 それと、昔は動物蛋白としての「肉」はきわめて貴重品だった。だから、イノシシでもなんでも野生動物は捕まえて、山間の民は食べていた。このため、昔は猟師がたくさんいた。しかし、今日では牛肉や豚肉、鶏肉など、よりマイルドな「肉」が何不自由なく食べられる時代になった。そこで、クセの強い「山肉」の需要が減り、野生動物を追う猟師もいなくなった。ついでに、自然保護思想の昂揚から、動物保護区などが多くできて、野生動物も守られるようになってきた。それらの動物たちが、保護区からでてきて農家がつくる作物を狙いはじめているのである。
 野生動物にとっては、農家の作物はまさに美味しい「郊外レストラン」なのである。人間がマイルドな味の肉や野菜を好むよう変化してきたのと同じで、野生動物たちにとっても、農家の野菜は山野の「山菜」よりも美味しいからである。おまけに専業農家が減り、勤めに出ながら農業を続ける片手間農家の作物が、警戒心も手薄なことを知って狙っているのである。
 あまりにもの被害に、とうとうある農家のオヤジはイノシシ捕獲という、自衛策にでた。巨大な檻を自分でつくって、イノシシ家族のせん滅をはかりはじめてたのである。
 イノシシ捕獲の檻の設置には、「有害鳥獣駆除」に関する狩猟法や動物保護法に付随した許可がいる。しかし、そのオヤジは許可を得てない。厳密にいえば、「密猟」ということになる。でも、近所の人たちはそんな法律のあることを知ってか知らずか、みな見てみないふりをしている。
 そういう僕も、農家のオヤジさんとイノシシの「知恵くらべ」がおもしろくて、見てみないふりをしている。難しいことをいうまえに、生きものとして互いの生命のぶつかり合いを見ていたほうが楽しい、からである。
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けもの道を歩く兄弟イノシシ。彼らは、もう立派な大人イノシシだ。 僕の庭にある松の木の根本で、イノシシは横着にも体をゴシゴシとこすっていった。 体をこすりつけた跡には、イノシシの剛毛が食い込んでいた。

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田んぼの中を歩いたイノシシの跡。こんなことをすれば、農家も怒る。 田んぼで転げ回って遊んだイノシシの跡。こんなに稲を倒せば、農家はもっと怒る。 クズの葉はスペードのように3つに大きく分かれているから、すぐにわかる。

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クズは、とても元気で生命力が強い。

 

植林ヒノキをどんどんからめていく、クズ。人工林として植林しても管理されない山が多く、クズがはびこりイノシシを育てている。 イノシシがクズの根を掘り起こした跡。クズの根には「澱粉」がたくさんあり、イノシシは大好物だ。

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林道脇でクズ根を掘り起こした跡。 クズの巨根からイノシシは澱粉を絞りとっていくが、細い根っこを残していくからクズは枯れることがない。あとから必ず再生してくる。 この場所を夜中の2時に通ったときには異常がなかったが、朝みたらこのようにイノシシが掘っていた。

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舗装された林道とその脇の境界線になった土には、ミミズや虫が多くいるらしい。イノシシはこうした境界線を定期的に掘っていく。 農家のオヤジが手作りした2棟のイノシシ捕獲檻。 こんな道ばたにイノシシ捕獲檻が堂々と仕掛けられている。左側の木立の下の農家のオヤジがここで知恵くらべをしている。

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スイカにモロコシにジャガイモが、もう一つの檻のエサだった。モロコシも美味しい部分を人間が食べてしまって、芯だけが目立った。こうして、檻に入れるイノシシのエサは、「日替わり定食」で替わっていた。檻の中には自生したカボチャも実って、イノシシの気を引いていた。 スイカをエサに、イノシシをおびき寄せていた。ただし、そのスイカは農家のオヤジが赤くて美味しいところを食べたあとの皮の部分だった。奥の踏み板にイノシシが登ると檻の扉が閉まる仕掛けになっている。 イノシシには檻が安全なことを伝えるため、扉がすぐに落ちないようにつっかい棒をしてあった。こうして、安心させておいて、このつっかい棒をある日はずせば、イノシシはご用となる。オヤジはなかなか、野生動物の生態を知っている。

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檻のそばには、親子イノシシの足跡があった。 とうとう、「ウリ坊」が掛かってしまった。 こんなに可愛い目をした「ウリ坊」なのに、この日の夕方には「ボタン鍋」にされてしまったらしい。後日、相伴にあずかったお百姓さんから、「不味かった」と聞かされた。ウリ坊も食べられたあげくに、不味かったとは浮かばれない。真夏という季節とイノシシの体が小さかったために、不味かったのだ。「シシ十六」というくらいだから、「イノシシは16貫目くらいがいちばん旨い」と、南アルプス山麓にある山肉屋「星野屋」のオヤジのいうことは本当らしい。

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農家では、ジャガイモ畑をイノシシから守るために波トタンで囲った。でも、このくらいの守りでは、イノシシは一発で破って侵入する。この写 真では、道路から右手が「鳥獣保護区」で、道路の左手は保護区外。車が走る横にある民家の屋根の向こうに、イノシシ捕獲檻は設置されている。黄色い道路標識の「十字路」を左に下りたところが、(15)の道となる。 こんな看板があるけれど、イノシシは昼間は保護区で休み、夜間になって周辺を荒らしまわっている。

これまでの写真は、すべてデジタルカメラにて撮影しました。
使用カメラ、ニコンD−1。 使用レンズ、シグマ17〜35ミリ、f2.8-4。

 

 

 

 

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