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●Gaku塾に連載の「gaku日記」の過去ログを掲載しています。


『山人の親切』 (06月21日)

梅雨の晴れ間をみて、南アルプス山麓の遠山谷へでかけてみた。
村落の道路脇に、マタタビの花がきれいに咲いていたので撮影を試みていた。
すると、すぐ脇のクヌギの小枝にハチの巣をみつけた。
下に向かって長くまっすぐにのびた巣が普段みかけるアシナガバチとは違っていたため、よく観察してみればそれは「ホソアシナガバチ」という種類だった。
 
「細足長蜂」という名前のとおり、体は細い。普通のアシナガバチより、体も若干小さい。顔もカマキリみたいに逆三角形で、なんとなく神経質にみえる。
だが、ハチには変わりがないので、その気になれば刺しにくるだろう。刺激しないように少しずつ接近して、30センチほどのところから撮影してみた。まだ、女王バチひとりだけの巣だから、こういうことも許してくれる。
時期的にもう少し遅かったら働きバチたちが大勢いて、こんなには接近させてくれないだろう。
そう思いながら自然に足を踏み入れるときは、いかなる場所でもあらゆるところに細心の注意を払わなければならないことを改めて自分に言い聞かせた。そうした目でさらに周囲を観察してみれば、いろんな昆虫たちのいることにも気づく。
 
わずか1メートル周辺だけでも、クモやらバッタの幼生、テントウムシ、アリ、寄生バチ・・・などなど。
あの偉大なるファーブル先生は、1メートル四方で何日間も遊べたにちがいないと思いながら、ボクも1時間も夢中になって撮影をしてしまった。
そんな脇を何台もの車が通り過ぎていった。
草むらにいるボクをみんなが不思議に思うのか、通り過ぎる車のエンジン音が徐行のために変わるのがわかる。
 
そして、1台が停まった。
すかさず運転席からおじさんが、伊那谷の方言まるだしで声を掛けてきた。
 
お『あんなぁ そういうところにはヒルがいるでぇ 気をつけてなぁー』
お『最近は、イノシシやらシカが増えて、ヒルも増えてるんなぁ』
お『体のどこへでも入ってきて食いつくから、逃がさんでくんなぁー 
  逃がせば、また増えて困るんでなぁ』
お『そういうときは、塩がいいんだに。塩をヒルにかけるとナメクジみたいにちぢんでいってなぁ 死ぬんなぁ』
お『ワシらあ、山仕事のときは、いっつもそれで退治しとるんなぁー』
お『ほい、これやるでぇー 持っておいなぁー』
 
そういって、ビニール袋に入ったポケットサイズに小分けしてある塩を車から投げてきた。
見ず知らずのボクに、いきなり声をかけてきたと思ったらヤマビル対策の話しだった。
なんとも親切だし、ヒルのことは念頭になかったボクだけに驚いた。
ヤマビルは、蹄をもつイノシシやシカにつきやすく、彼らが分布を広めているとも聞く。
ボクはゴム底の長靴で草むらに入っていたから、ヒルを刺激しなかったのかもしれない。塩を普段から持ち歩いている地元の人たちがいるところをみれば、ほんとうに困っているにちがいない。
ボクはまだ、ヤマビルに食われたことがないが、その洗礼はいつ訪れるのだろうか。

 
地上1,3メートルほどのところにあったホソアシナガバチの巣。顔にもう少しであたるところだった。




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