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●Gaku塾に連載の「gaku日記」の過去ログを掲載しています。


『棄田』 (06月08日)

山間の沼地にイノシシのヌタ場があった。
ヌタ場とは、イノシシがダニなどを落とす泥浴び場のことである。いわゆる人間でいうところの「風呂」と、思えばいい。
 
イノシシ一頭分の水たまりができて、その底は窪んでいた。
水たまりには、木々が映り空が見えた。
イノシシが泥浴びをしてあまりにも気持ちのいい陶酔したその目には、たぶんこんな空が映るのであろう。
平和で誰にも邪魔されない場所だから、イノシシはここをヌタ場に選び健康管理をしているにちがいない。
 
この景色をよく見ると、ヌタ場とその上部は平らな広場になっている。
普通の人はこの景色にであっても、昔ここに「田んぼ」があったとは思わない。
ここは、30年ほど前まではちゃんと田んぼだったのだ。
そして、「米」の生産ができていたところなのである。
 
米に対する人間の執念は、こんなにも山奥まで田んぼをつくらせたのだった。
わずかな水脈をさぐり、山を切り開き、小さな平地をつくって、田んぼに仕上げた。
おそらくこの田んぼは、内緒で米をつくってきた「隠し田」だったにちがいない。
こうした田んぼが米余りの飽食時代を迎えて、減反政策と同時に、まず切り捨てられていった。
水脈を管理する人間もいなくなったから、水は本来の地下水脈に沿って自然の流れをつくり、田んぼ全体を湿地に戻していったのだ。
そんな湿潤な地を、イノシシはヌタ場に好む。
 
昔、人間が執着した土地が「棄田」となり、そこに野生動物が入る。
自然はこうして時間とともに、土地の管理者が代わっていくのだ。

 
土手には木が生え、田んぼだった平らの部分も林になって、やがてはつわものどもの歴史も消えてなくなるのだろう。




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