職場体験学習の少年

学年生徒が50人ほどの、隣のそのまたとなりの、さらに山奥に入ったところの中学校から職場体験学習をさせてほしいと、一人の少年がやってきた。
聞けば、どうしても写真家になりたいのだ、そうだ。
だから、写真家の現場を見て体験させてほしいと、学校からも依頼状がきた。
しかし、こういうことはけっこう面倒でやっかいなので躊躇していたら、遠い知り合いの息子さんだったということがわかって承諾した。
まあ、中学生だし、事故だけには遭ってもらいたくないから、2日間の日程スケジュールを何とか考えてみた。
一日目は、全国的にも珍しく、長野県でもここだけでしかやってないという「ヤギの品評会と市場」をボクは取材したいと思っていたので、そこへ連れて行った。
そのあとは、無人撮影カメラの設置場所の草刈りを手伝ってもらった。
二日目は、ツキノワグマの撮影現場づくりと、登山道の草刈り。あとは、熊の痕跡さがしの手ほどき。
まあ、いまどきの中学生だから、カマやスコップの持ち方から、電動ドライバーの使い方のイロハまで説明してあげないといけない。
そして、道具はなんとか使えても、仕事の要領は自分で工夫していくしかないから、ボクが手伝ってあげたくてもそこはそっと見守っていくしかない。
まあ、まどろっこしくて、ボクが働いたほうが早いのだけれど、「体験学習」、なので。
道中の車の中では、写真家の仕事をこんこんと聞かせるしかなかった。
「君たちは、カメラのシャッターを押せばすぐに写真が撮れると思っているん、だろう…?
だけどねぇー 草刈りや現場作業のすべてをこなしながら、やっと一枚の写真が撮れるかどうかという世界、なんだよぅー
写真家なんてのは、たったひとりですべてをやらなければならない仕事なんだぁー
会社でいうなら、社長がいて、工場長がいて、営業部長がいて、経理部長がいて、企画部長もいて、そういう人が一人でも欠ければ会社なんて成りたっていかないんだからさぁー
写真家は、その社長や部長のすべてが一人に備わってないと、できないんだからなぁー
1+1は、2になることもあるけれど、マイナスになったり、100にもなることを考えなければやっていけないし、なれないんだからな…」
少年の返事が、、ない…!?
「・・・・・・・・・・ZZZZ」
おや、まぁー 車の助手席で眠ってしまっているではないか。
緊張と、作業で疲れているのだろうけれど、きみぃ、職場体験だろう…に?
まあ、見てみぬふりをするのも、オイラの親心というモノ。
で、昨夜ツキノワグマがサクランボを食べにやってきた桜の木があったので、そこを見せてあげた。
少年は、「どうして熊が来たと分かるのですか・?」
「ほら、桜の枝や葉をよーーく見てごらん、あの葉が3枚ほど裏返しになってまわりの葉より元気がないだろう
ほらほら、あちらの枝にも、そのような葉が見えるだろう
あれは、熊がサクランボを食べるために枝を引っ張ったときにできたものさ
あの元気のない葉が、どのくらいの時間が経てば元気がなくなるのか、それは葉っぱの変化を長年の観察と経験から割り出していくのさー
こういうことがとっさにできないようでは、動物の写真なんて絶対に撮れないから、な
おや、そこの林でキビタキが鳴いているだろう
あれは、オスがメスの抱卵を励ましている声なのさ
だから、近所をよーく探せば、巣が見つかるというものだよ」
まあ、たった2日間の職場体験なのだったが、少年の目がキラキラと輝いていけば締めた、もの。
こういう体験は、やはり、何回も繰り返さないとわかってもらえないし、自分自身の血や肉にはならないだろう。
他人に厳しく自分に甘く…、これが本当の世界なのだろうが、今回のボクは自分に厳しく他人に甘く、だった。
少年もたぶん、この2日間で何かをつかんでくれたかと、思う。
いや、つかめなかったら、きみぃー失格だよ。
写真上から、
1)ヤギ市場では、品評会で優秀賞をもらったリボンを食べている選外のヤギ。どちらも、顔は同じようなヤギだったが。
2)草を刈ったあとを、ゴミかきで散らしてもらったが、彼は手に血豆をつくっていた。
3)昨夜、熊が登った桜の木をチェックしている少年君。
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森のライブカメラザ・ベストも更新されています。
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>>ライブカメラベスト集 2007年8-9月 むささびホテル : ムササビ赤ん坊 蜂の巣事件 はこちらです
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写真集が発刊されました!!「洗剤キャップの棲み心地は?」 ―かわりゆく環境・日本生き物レポート―写真・文/宮崎 学 理論社 ![]() 私たちのまわりで、動物たちはどうやって生活しているのか? 写真&文で伝える自然からのメッセージ。 身の回りの自然に目を向けてみよう。自然環境は、人の営みの影響から、日々変化し続けている。写真家・宮崎学の最前線レポート。>>かわりゆく環境・日本生き物レポート ここから購入できます |
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