獣害を考える 8 シカ防護フェンスの個性いろいろ

全国各地で、獣害に困っている地域はたくさんある。
そんな地域になるべく多く出かけていき、出没動物密度と周辺住民の心理を探ることもやっている。
今回は、三重県の鈴鹿山系から岐阜県にかけて見届けてきた。
「鈴鹿」というくらいだから、この地方には昔からたくさんのシカがいたのだろう。
鈴鹿市内で獣害に困っている地域の人に聞いてみれば、たしかに昔からシカの害はあったそうな。
しかし、イノシシの害も多かったが、ここ10年ほどは圧倒的にシカの害のほうが増えているという。
これは、近畿地方や中国地方を回ってみても、どこでも聞く言葉である。
では、ここ10年ほどでニホンジカが何故に激増したのだろうか?
そういうところにも思いをはせる人間は少ないものだ。
こうした獣害対策で感じることは、各地それぞれに防護柵などの対策デザインに特徴があることである。
それは、たぶん、誰かがひとりはじめると、右にならえといったかたちで対策が実行されていくから同じデザインになるからだ。
裏を返せばそれは、シカを大量捕獲して実害を減らそうというような抜本的対策アイデアがないまま、対処療法的にその場しのぎの守勢として行われているためである。
地域に、シカの生態に秀でた人がリーダーとなってやればいいのだが、それをできる人がいないから、対策デザインがそのまま人真似となり似ていき、対策そのものも小さく、頭打ちになっていくのが現状である。
ここは、もう、激増し続けるシカをいかに大量捕獲して「資源」にしていくかといった大きな発想転換期にきている。
いまや、ニホンジカやエゾシカの激増が人間の社会生活を大変な勢いで圧迫してきていることに早く気づき、対処するべきところにきているのにである。
それなのに、国をはじめ地域行政でも、電気柵だけの対応をさせているだけで、他には何も手をつけようともしないのはきわめて憂慮すべき事態である。
生態学者にしてもシカをいかに減らせばいいかといった奇抜なアイデアを出せる人がいないから、すべてが後手にまわっているのが人材不足といってもよく、人間観察をしていても面白いところだ。
鈴鹿地方の農家のおじさんが言っていた。
「この広い地域に、ハンターは2人しかいないんだよ。それも、年寄りでいつまで続けられるとも分からん…」。
近代社会を皆が迎えたと思っている日本で、そこに暮らす地域住民たちは、自然界というところはどんなものなのかといった大切な部分を考えることなく、大きな忘れ物をしてきてしまったとボクは思った。

写真上から:
1)四日市市内で見かけた獣害防護柵。これはまさに気休めであり、シカもイノシシもすぐに突破できる。だが、なんとかしようといった努力がうかがえるのが楽しい。
2)左、鈴鹿市内。下段の波トタンは主にイノシシやタヌキなどの侵入防止対策で、上部のネットはジャンプ力のあるシカ対策。
右、四日市市内。市販の防獣ネットできれいにフェンス張りができていた。同じような防護柵が近所に固まって見られたのは、誰か一人の行動からの発案であろうことがうかがえる。
3)左、大垣市内。下段には波トタンに鉄筋メッシュフェンス。上段はビニール紐。これは、下段デザインではじめのうちは効果があったのだろうが、やがてシカがジャンプして侵入してくるようになり、対策として上部にビニール紐を張るようになったのだ。周辺の畑のほとんどがこれと同じデザインだったから、とりあえずはこれで何とか獣害対策ができていると思う。しかし、これもビニール紐の劣化と共に突破されるのは時間の問題と見た。
右、大垣市内。左と同じ地域にあったフェンスだが、これは金をかけずに近所の竹薮にあった竹で代用したフェンス。いまのところはこれでもシカ対策はできているかもしれないが、竹の老朽化とともに突破される日も近いだろう。この現状でも、タヌキ、キツネ、アナグマ、ハクビシン、アライグマ、ヌートリアには、まったく通用しない。
ツキノワグマが庭先まできているのに…
伊那谷の林の一角に小さなオーガニックレストランがある。
そのレストランは、子供たちになるべくよい本を見せようと数百冊の絵本などを並べてもいる。
あるとき、ボクはこのレストランへ食事に出かけた。
窓辺のテーブルからは、手を伸ばせば木々の枝をつかまえることができた。
もちろん、それらの木々は林の奥まで続いていた。
主人は、ボクが何冊もの出版物があることを知っていたので、かなり親しげに話しかけてきた。
そして、いろんな会話のあとで、
「ここのレストラン脇にもクマがくるから、夜間などの外出はほんとうに注意してくださいね」、
とボクは言った。
すると主人は、
「そんなバカなぁー クマなんてこんな場所には来ない…」。
さも、いい加減なことをボクが言っているような目つきで、否定した。
こんな人にクマなど野生動物の話をこれ以上してもムダだと思ったから、ボクは話題をそらした。
しかし、このレストランから300mのところには、実際にはツキノワグマが何回もきている場所がある。
もちろん、通学路だって近くにあるし、ボクはツキノワグマの行動力を知っているから、認識を新たにしてほしくて言ったまでだ。
それなのに、子供にはよい絵本を、食生活はオーガニックを、と理想だけは高い。
同じ伊那谷という風光明媚で自然環境の豊かなところに生活していながら、こんなにも足元の自然環境を見ていないのか、とあきれてしまった。
自然は、アフリカの草原やアラスカ、カナダの森林帯にしかないと思っているレストランのご主人。
この意識ギャップこそが、ボクには事件だと思った。
いつから、日本人はこうまで自然を見れなくなってしまったのだろうか。
よい「絵本」だと思っている数百冊の蔵書そのものが、もはやここではムダなことだと思った。
たくさんの自然環境が足元にあるというのに、地域住人がここのレストランへやってきて親子で「絵本」を読んで満足していくのかと思うと末恐ろしさをも感じた。
ちなみに、ここには、ボクの本は一冊もなかった。
それで、いいのだが。

写真上から:
1)矢印のところまでツキノワグマは平気でやってきている。もちろん、ここは道路も人家もレストランも公園も、ある。この写真の中だけでも4万人強の人口があるが、誰一人として野生動物たちがどこを歩き回っているかなんて考えたことのある人間はまずいないだろう。
2)ふだん見慣れている風景でも、ちょっと雪が降れば、「けもの道」がくっきりと見えてくる。この道をツキノワグマも歩く。こうしたちょっとした視点から自然界を考え発想し、無人カメラが無理ならヘアートラップなどを仕掛けて探ってほしいものだが、田舎の人間とて現代社会では意識が退化家畜化されてしまっているから期待するのも無理だろう。
3)里のケヤキの元に遊びにきた子熊。100m先には通学路がある。
カラスのお宅拝見
カラスは、全国どこにでも棲んでいる野鳥です。
真っ黒で、ダミ声で、いたずら好きで、とにかく多くのヒトに快く思われていない野鳥だと思います。
でも、そんなカラスがボクは好きなんです。
どこが好きかといえば、カラスはとっても「助べえ」だからです。
助べえということは、好奇心が旺盛ということでもあります。
その好奇心でいっつも人間を観察していますから、カラスは人間のそばに棲めるのです。
あるとき、人家の庭にカラスの巣を見つけました。
庭に植わる桐の木にその巣はありました。
まだ、春も早かったので、桐の木は芽吹いていませんでした。
そんな丸裸の木に、直径が50cmもある大きな巣をつくれば、それはよく目立ちます。
しかも、地上6mほどの高さに巣がありますから、空に抜けていて、ボクのような自然に関心のある者にはすぐに見つかってしまいます。
そのカラスの巣をボクは覗いてみたくなりました。
でも、人家の庭ですから、家のヒトの許可をいただかなければなりません。
そこで、ボクはいきなりカラスの巣のある家に飛び込んで許可をもらうことにしました。
「ごめんください、すみませんが庭木にカラスの巣があるので登らせてください」
人家からは年配のおじさんが出てきました。
「はぁー カラスの巣ねぇー どこにあるぅー?」
「いや、おじさんちの庭にある桐の木ですが…」
「なにぃー あの木にカラスの巣があるだとぅー そんなもの見たこともないぞぅー」
「だって、おじさん、ちゃんと巣がありますよ。見たこともなかったのですかぁー」
「ああ、知らないぞぅー いつのまにか巣をつくったのだろう、か?」
おじさんが、知らない間にカラスが巣をつくっているということは、それだけおじさんがすべてに無関心だったからカラスはそのところをちゃんと見抜いて、「ここなら安全」と思って巣をつくったにちがいありません。
そこが、カラスの「助べえ」なところであって、人間をこうしてきっちり観察している証拠なのです。
木に登ってみれば、卵が4個きれいに並んで巣の中にありました。
卵の周りには、犬の毛がどっさり敷き詰められていました。
そんなボクの木登りを庭で見守ってくれていたおじさんが、
「卵はあるかい、なぁー」
「ありますよ、4個」
「ほう、4個も産んであるんかい、な?」
「おじさん卵を見ますか?」
「うん、見せてくれやぁー」
ボクは卵をそっと手にとって、木の上から庭にいるおじさんに見せてあげました。
「ほう、カラスはそんな色の卵をしとるんかい、な?」
「それに、チャボほどもあるけっこう大きな卵なんだなぁー おらあ 初めてみるにぃー」
おじさんは、庭のカラスの卵に感動しているようすでした。
「ところで、おじさんちには犬飼ってますか?」
「いやぁー 犬は隣にいるが、うちにはいねえ…」
「隣って、あの100mほど離れたお宅のことですか?」
「そうだぁー あの家だ」
「あの家の犬は茶黒のブチですね、たくさん犬の毛がこの巣に入っていますよ」
「ほほぅー 犬の毛なんかも使っているんかいなぁー」
「そうなんですよ、カラスはですねぇー 犬だけでなく、近所に馬がいればその毛を使うし、人間の髪の毛だって巣の材料によく使っています、よぅー」
「へえぇー 驚いたなぁー カラスってそんなにもいろんなところを見ておるとは知らなんだ、なぁー」
「とにかく、おじさんちの庭木にカラスが巣をつくったということは、おじさんがカラスのことを全然知らずにいることを、カラスはちゃんと見届けていたからなんです、よぅー」
とまあ、こうしてボクは初めてのお宅で木に登らせてもらったのですが、カラスのことを少しでも知ることができて、おじさんのほうが嬉しそうにしていました。
現代の人は、自分の庭の自然にさえ無関心になっていますから、カラスもこうして庭に巣をつくるようになったのです。
これが、50年も前の昔なら、カラスは人家の庭になんて巣をつくりませんでした。
村中の子供たちがいろんなところに関心を示して遊んでいましたから、カラスもそんな子供たちの視線が気になって人家付近には巣もつくれなかったからです。
子どもが登れる木などに巣をかけたらたちまち覗かれたり、いたずらされてしまうことでしょう。
現在では、里山の人家をはじめ、都会の並木道やビル街など、いたるところにカラスの巣があるということは、それだけ現代人が身近な動物に目を向けてないということです。その人間をカラスが逆に観察しているからなのです。
そんなカラスの人間観察の心理が分かってボクも嬉しくなります。そうしたカラスの好奇心が、ボクには好きでたまらないのです。
- カラスのお宅拝見
日本の自然を誰よりもディープに見つめる自然界の報道写真家・宮崎学。彼が30年以上かけて撮りためたカラスの巣を、厳選して一挙公開。北は北海道から、南は九州まで、カラスの巣、巣、巣……。北方四島をバックに、丸の内ビル街をバックに、奈良の古墳をバックに、鹿児島の桜島をバックに、日本全国あらゆる場所に営巣するカラスたちの営みを激写。人間社会の落とし物で巧みに作るカラスの巣を見ていくと、わたしたちが見落としていた「ニッポン」の姿が見えてくる!
新樹社刊 2,000円(税別)
森のライブカメラ で、ムササビの赤ちゃんが誕生しました。(3/23日)むささび荘にしかけた巣箱の中で、ムササビ母さんが出産したようです。これからが楽しみですね。
森のライブカメラザ・ベストも更新されています。
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スズメバチがムササビの巣箱に僅か一日で巣を作ってしまうことが、記録されています。この画像は、静止画としてキャッチされたものをつないで、動画にしたものです。(作成/ILLOMENさん)
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